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ブログ2013.5.20.(月)
上京
この週末は、友人の結婚パーティーに出席するため、東京に行ってきた。
新宿に降り立つ。日本で一番人が多く、日本で一番せわしなく、日本で一番喧騒に満ちた街。東京に住んでいた時、僕は新宿区の外れのアパートにいた。新宿は庭みたいなものだ。とは言ってもいつも行くところなど決まりきったもので、レコード屋、楽器屋、ライブハウス、この3つを廻れば大体用など済んでしまうのだった。福井に帰ってきてしばらく経つが、いざ上京しても特別な感慨はない。慣れ親しんだもう一つの場所に戻ってきただけの話。
結婚パーティーには、大学時代の同期や先輩、後輩、10年以上ぶりに会うような人も結構いた。パーティーのような場は苦手で、滅多に行くことがなかったので、僕がその場にいることに驚かれたりした。大学時代の僕はと言えば、自ら進んで人との交流を避けた。浮かれたキャンパスライフなど、僕はほとんど味わったことがない。むしろ憎悪の対象だったと言ってもいい。
大学に入って間もないころ、語学のクラスメートに昼食に誘われた。学生会館の地下の、古い食堂に二人で入って、僕はチキンカツ定食を、彼も同じものを頼んだ。その食堂は古くて、照明も暗くて、人も少なかった。キャンパスにこだまするキンキンした喧騒をを避けて一人になりたい時は、僕はそこによく行った。クラスメートの男は「へえ、こんなとこに食堂があるんだね」と、訝しげにあたりを見回し、席に着いた。食事をしながら、何を話したかは覚えていない。第一、彼の顔も名前も覚えていない。覚えているのは、「君は随分トゲがあるね」という彼のセリフ、途切れがちの会話、銀色の皿と箸がぶつかるカチャカチャいう音、それだけ。彼と食事をすることはその後二度となかったし、語学のクラスでもほとんど話さなくなっていった。
何を恐れ、何に怒っていたのか、わからない。でもあの頃の僕は、常に恐れ、常に怒っていた。何かが許せなかった。胸の裡を、どす黒い泥流のようなものがドロドロと渦巻いていた。晴れた日の日差しが鬱陶しかった。誰かの笑い声など、かき消してやりたかった。あの日々を青春と呼ぶなら、青春とは何と暗く、不潔なものなんだろう。喧騒と混乱と、嫉妬と欲望と。
そんなことを思い出しながら、パーティー会場に向かった。不思議なもので、時の流れは人を変えるらしい。その場にいた人、皆の笑顔を屈託なく受け入れている自分がそこにいた。大学時代の友人たちは、もう今は大方結婚もし、ある者は新しい事業を始めたり、ある者は外国に住んでいたり、ある者は相も変わらずバンドをやっていたりした。皆10年の月日をそれぞれに生き、それぞれに苦労もし、それぞれに楽しんでいる。何だ、そういうことか、それでいいじゃないか。独りで生まれて独りで死んでいく、それぞれの人生の道が、時たま交差して、誰かと出会う。その時にやあ、元気かいと挨拶し、お互いの見てきた景色を教えあう。あっちには綺麗な山があったよ。へえ、君は海を見たのかい?僕も見てみたいよ。
いや、一つ僕は言い間違えた。時の流れが人を変えたわけじゃない。その月日に出会った事や、出会った人々が人を変えるのだ。もちろんすべてが良い方向に変わるとは限らない。でも、今この瞬間、自分が笑ってそこにいられるということは、よかった、ってことなんだろう。感謝しなきゃいけないんだろう。
東京を後にする直前のわずかな時間、この街で出会った人間の中でも最も深い印象を僕に与えたうちの一人である友人とコーヒーを飲んだ。彼もまた俺を変えた一人だ。たった1時間に満たない、永遠のような瞬間。アイスコーヒーの冷たい苦み、ゆっくりと立ち昇る煙の粒子。
僕はバスに乗り込む。変わらない何かを胸に感じながら。
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LIVE INFO
6月14日(金)@福井CHOP
『Back Ground Music #43 アコースティックナイト!』
出演
バッカナル
Well up the Voices
松並哲也
etc…
開場18時30分/開演19時00分
前売/当日 1000円(ドリンク代別途必要)
6月15日(土)@大阪心斎橋火影
HOKAGE presents
『伝説のレジェンド12~大阪編~』
出演
SEI WITH MASTER OF RAM
bilo’u
KIFUDOH
BIRUSHANAH
SPIRITUAL GARDEN
松並哲也
開場/開演 17時30分/18時00分
前売/当日 2000円/2500円(ドリンク代別途必要)
チケットのご予約は
goinginside.429@gmail.com
まで。