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2017.3.10.(金)

なくしたくないもの

3月9日。松波哲也初めての岐阜でのライブ。

岐阜は母方の故郷だ。もちろん僕にとっても馴染み深い土地で、盆暮れ正月になると母親の里帰りでよく一緒に行ったものだった。祖母の家は小さな日用品の店をやっており、今でも健在だ。とは言っても御歳92、大正生まれで店をひとりでやっているのは、岐阜市内でもほとんどいないらしく、足腰も弱り、腰も悪いようで歩くのも困難なくらいだ。

盆暮れ正月に岐阜に行くとなると、僕は福井とはまた違った岐阜の雰囲気が楽しみで仕方なかった。海がない土地で、川と山に囲まれ、古い街並みも残されているし、岐阜には独特の匂いがあった。それは今でも変わらないけど、街自体が歳をとった。岐阜の繁華街「柳ヶ瀬」も僕が子供の頃は随分賑わっていたが、今では見るも無惨な、寂しいシャッター街になってしまった。これは地方都市が共通して抱えている問題で、福井だって同じだし、他の街も似たようなものだろう。郊外に新しいショッピングモールができて、駅前や昔からの繁華街が衰退・空洞化する。それが世の常ならばそういうものだと思うしかないけど、やっぱり僕は在りし日の姿を知っているだけに、寂しかった。

その上、もう先も長くないであろう祖母が亡くなった後は、祖母の家も取り壊され、僕は岐阜に行く理由もなくなってしまうだろう。そういうものかも知れない。大人になると言うことは、多分にそういうことなのかも知れないが、僕はこの土地との縁をなくしたくないと思った。だから、岐阜でのライブを決めた。とは言え、ライブ前に会いに行った祖母は声も大きくハッキリしていて、とてもよくしゃべるのであった。まだしばらくは大丈夫そうな気がするな。

岐阜antsは、そんな寂れた柳ヶ瀬の西のはじっこにあるライブハウスだ。西柳ヶ瀬は、キャバクラやホストクラブが軒を連ねる地区だ。antsの裏手にもストリップ劇場があるし、antsの目の前にはポルノ映画館がある。何だかいかがわしい雰囲気の一角にあるのだが、何か妙な安心感がある。何なんだろう、あの色街特有の安心感は。未だに謎である。

この日は、antsが定期的に開催しているアコースティックイベント『ACO LOUNGE』にお邪魔した。入って挨拶すると、この日のイベントはライブホールではなくて、バースペースに簡易ステージを設営して行われるようであった。平日のアコイベントにはちょうど良い広さと雰囲気だ。PAをしてくれた人は、何と福井出身だと言う。敦賀らしい。敦賀の知り合いの名を挙げると、知ってる!とのことだった。世間は狭いなあ。

出演者は僕を含めて4組。ダニエル國枝、幽希、KAZZMAN(敬称略)、いずれも初対面だったが、皆それぞれの個性を感じて楽しかったし、ライブの内容も良かったと思う。岐阜も福井も田舎だが、そこに生きているローカルミュージシャン、そして秘めたるものも確かにこの目と耳で感じることができた。岐阜は個人的な思い入れの深い土地だし、福井から地理的にも近い位置にある。もっと繋がりを濃くしていけたらな、という思いが生まれた。もっと岐阜のミュージシャン、岐阜のライブの場を知りたい。

ライブを終えて、antsを辞した時にはもう11時半近くになっていた。僕は眠い目をこすり、コーヒーを飲み込んで、福井への帰路についた。また近いうちに、岐阜に戻ってきたいと思う。

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