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2017.4.20.(木)

そこで歌うということ

前回からの続きを。

吉祥寺の友人宅で目覚めた僕は、昼過ぎに吉祥寺を出て、地下鉄東西線は落合という駅に向かった。

僕は東京時代、ここに住んでいたのである。新宿区の外れ、中野区との区境付近の、落合という地区。この駅から徒歩3分のアパートに、僕は十数年いた。

改札を出て、地上への階段を上がり切ると、そこは大きな交差点だ。山手通りと、早稲田通りの。何百回、何千回と見た風景だが、馴染みの店がなくなって新しいお店がたくさんできていたり、東京は相変わらず変化が速い。だが、大体は僕が住んでいた時の雰囲気が残っていて、いろいろ蘇ってくるものがある。雨の落合交差点も久々だ。僕がここにやって来たのは、この日の会場「Roxette Cafe」が僕が住んでいたこの落合からほど近いからである。歩いて15分、20分くらいの新井薬師というところにある。家から散歩してこの新井薬師にもちょくちょく行ったものだった。

当時よく行っていた近所のラーメン屋に久々に行きたくて、駅からそこに向かう。途中小道を入っていくと昔住んでいたアパートがある。ちょっと行ってみることにした。そのアパートは、まだそこに変わらずあった。見た瞬間、まだそこに住んでいるような錯覚に陥った。ちょっとそこまで出かけて、また帰ってきたような。バンドを辞めて、僕は福井に帰るという選択をし、その後ソロ活動を始めてこうしてまた東京にライブをしに来ている訳だが、あの時バンドを続けるという選択をしていたら、僕はまだここに住んでいたはずだ。だから、あの102号室にはあの時違う選択をしたパラレルな僕が住んでいるかも知れない…などと思い、少しセンチメンタルになった。

よく行っていたラーメン屋は、店舗自体はあるものの、まったく店名もメニューも別の店になっていた。話を聞いてみると経営者自体はまだ同じだが、他の店舗も展開していて、この店は前とはまったく別物になったということだった。味は…ちょっと残念だった。

食事を終えたら、新井薬師に向かう。この日は本間章浩さんとの3日間の最終日である。新井薬師Rosette Cafeは、新井薬師駅のすぐ横の雑居ビルの3階にあった。僕は初めての場所だが、本間さんの企画『本間章浩ナイト』はここでもう47回目を数えるらしい。

 

始まった。まずは本間さんがトッパーで思いっ切りハードルを上げる。前日の演奏もさることながらここでもやはり全力の本間節だ。強烈さの後ろに隠れがちで見えにくいが、彼の歌はやさしい。曲もメロディアスで、詞もすばらしい。本間さんのバックボーンの厚さと、あの強烈さの裏に幾層にも重なった歴史を、この3日間で感じた。

今回、急遽決まったのがこの佐伯憲陽だ。僕がバンド一寸笑劇時代からの旧知の間柄で、本間さんとは共通の知り合いでもあった。一寸笑劇時代は、自分たちの企画に彼のバンドを呼んだり、彼の企画に一寸笑劇が呼ばれたりしていた。つまり、よく顔を合わせる仲だった。が、この日久しぶりに会って、すでに5年ぶり?くらいであった。が、彼は何も変わらず、まるで昨日の酒の席の続きのように話ができた。音楽や文学、映画、民俗学まで彼はこう見えて非常に博学で勉強熱心であり、いろんな話をしたものだった。彼にまた会えて嬉しい。ライブの方も相変わらずの緊張感で、この日は弦を2本切る熱演。またすぐにでも会いたいミュージシャンだ。

高田拓実さん。ご本人はライブ終了後すぐに帰ってしまったのであまり話ができず残念だったが、友川カズキ、三上寛、遠藤ミチロウなど怨念のフォークシンガーの影響を個人的には感じた。海の歌がよかったなあ。

お次は僕の出番。全力でやりました。以上!

トリを飾るのは55キャバレヲン。お店の人がやっているバンド/ユニットである。グラムロッカーのような風貌のボーカルが妖しくクネクネと身体を揺らし、何とも空気をストレンジなものに変えていく。最後は本間さんも加わりセッションタイム。予定調和など軽く破る大盛り上がりで終了した。

ステージ上で僕は「この3日間いい思い出になった」と発言し、「何じゃそりゃ」みたいな雰囲気になったんだけど、僕としてはそれだけです。これもステージ上で言ったことだけど、それしか残らないから。この3日間が心に食い込む、そんな思い出になればいい。3日間、本当に楽しかったし、次なるステージのおぼろげな姿が見えた。そこに向かいます。歌うということの現段階での心構えというか、そういうものを大いに感じた3日間だった。これを通過した僕は、もうそれ以前の僕ではない。それはハッキリわかる。

終了後は朝まで飲む!と聞いていたが、日曜の夜ということもあり、割と解散ムードに。僕もその場を辞すことにした。

本間さんに別れを告げ、僕は夜に消えた。その後のことは僕のみぞ、知る。

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